今回は公益財団法人ジョイセフ事務局次長である小野美智代さんにご登壇頂き、第11回WOMANウェルネスライフ研究会を開催しました。
弊社として、ジョイセフの活動に共感し受講料や日めくりカレンダーの収益の一部を3年前から寄付をさせていただいてます。
小野さんがなぜジョイセフに入職したかのキャリアストーリーからジョイセフの活動、世界や日本の現状を実態や実感を小野さんの言葉でお伝えいただき、皆さんの心に響く研究会となりました。開催レポートをご紹介します。
講座の詳細はこちらをご確認ください。
世界でいちばん、妊婦や乳児の死亡率が低いと言われる日本では考えにくいですが、世界では、15〜19歳の女性の最大の死亡原因は、妊娠・出産、安全でない中絶です。女性であることで命を落とさないような社会にしたい、そんな願いから、一時的な金銭的な支援ではなく、女性が教育、仕事などにより自立し、「女性が選択できる世界」をめざして活動しているのが、公益財団法人ジョイセフ(以下、ジョイセフ)です。
今回研究会でご講演いただいたジョイセフ事務局次長の小野美智代氏は、カンボジアの友人が、医療者が立ち会うことなく、自宅での出産で亡くなったのを機に2003年にジョイセフへ入職。
広報として世界の女性の現状、特にセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利: 以下、SRHR)の課題を発信し、国際協力支援活動されています。
あと先になってしまいますが、研究会後に感じたのは、SRHRが発展途上国という遠い国の話ではなく、日本においてもまだ十分でないことへの驚き、そしてその自覚があまりなかったことでした。
※Sexual and Reproductive Health and Rights(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)
自分の人生は、自分で選ぶ。そんなあたりまえをすべての人に。SRHRとは、「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:性と生殖に関する健康と権利」を意味します。具体的には、性と生殖について、私たち一人ひとりが適切な知識と自己決定権を持ち、自分の意思で必要なヘルスケアを受けることができ、みずからの健康と主体性を守れることです。(ジョイセフHPより引用)
「なんで女性だといけないの?」そんな疑問からジェンダーを学ぶ
小野氏は静岡県の旧家の17代目。二人姉妹の長女のため、婿をとり小野家の跡取りにと言われて育ったそうです。旧家ということもあり古い仕来りのなかで、例えば、男の子を産まなかったことで母親が肩身を狭く感じていることや、上棟式で月経がある女性は屋根に上がれずお餅をまけないなど、男女差について感じることも多く、大学では社会学を専攻しジェンダーについて学びました。
女性が女性であることで、命を落とさない社会に
海外での活動からわかるのは、月経中は、ネパールでは太陽の光を浴びてはいけない、ザンビアでは水に触れてはいけないなど、月経や出産に関する慣習や迷信が世界にはまだまだあり、これらが実際の女性の教育や就業の妨げになっていること。他にも、月経がはじまったら即結婚、妊娠という人生しかなかったり、医療を受けられないリスクが高い妊娠・出産など、女性が自分の意思で生き方を選択するのが困難な国が多いという現実があります。
ジョセフの活動として、性について男性も含めて啓発し、教育できる人材を育て持続的に教育できるようにしたり、裁縫技術を伝えて女性が収入を得られるようにサポートしたり、検診、出産、予防、教育をワンストップで行えるようコンパクトに関係施設を集めるなど、さまざまな支援を実施しています。
「家族計画」の成功は日本から
日本では、統計を見ると、乳児死亡率/妊産・死亡率は減少傾向が続いていますが、1952〜55年の一時期、微増しました。これは、ベビーブームの頃に4〜5人目となる望まない妊娠して、安全でない中絶をした人が増えたためと考えられています。こうした状況に、厚生省(現、厚生労働省)はすぐに対応しました。それが家族計画です。望まないなら「避妊」をするよう啓発し、日本の人工妊娠中絶数は1955年の117万件から2021年は12万176件へと大きく減少しています。
家族計画は、出産の間隔をあけることで、女性に対して栄養面の充実、教育の実施、そして貧困を防ぐことにつながることがわかっており、2016年に出された論文「Global Health」では、家族計画は、女性、家族、地域社会、国に利益をもたらし、SDGsの5 つの目標(※)を達成するために、「best buy(最良の投資)」とされています。
※
目標1.貧困をなくそう
目標2.飢餓をゼロに
目標3.すべての人に健康と福祉を
目標4.質の高い教育をみんなに
目標5.ジェンダー平等を実現しよう
ジェンダーは女性にも男性にも重要
では、いまの日本において、SRHRの課題とはどんなことでしょうか。
毎年報道されて目にしたこともあると思いますが、日本はジェンターギャップ指数ランクでは、125位、先進国では最下位。理由として、政治面や経済面が大きな男女格差を生んでいるからと言われています。一般的に、ジェンダーとは、女性への差別の問題ととらえがちです。
しかし、ジョイセフが実施した調査では、15〜29歳の男女で、「泌尿器科や婦人科の悩みについて誰が相談相手か?」という問いに、女性は約4割が母親、次に友人という回答となりましたが、男性は、「相談する相手は誰もいない」が約4割、そしてこの「相談相手は誰もいない」という男性の回答率は、年齢とともに上昇していることがわかりました。性という問題はもちろん、男性は「相談する」ことに非常にハードルが高く、年齢とともにその傾向が強くなっていくことから、男性の生きづらさが感じられます。
日本における子宮頸がん、人工妊娠中絶の課題
日本では、年間約3000人が死亡して、先進国で唯一子宮頸がんの死亡率が増加しています。これは子宮頸がん検診の受診率の低さや、HPVワクチン接種の低さなどが要因とされています。また、日本の人工妊娠中絶の統計を見ると、令和3年度で全件数は12万0176件。そのうち10代は9093件に対して、40代で約1万3270件になり、40代の件数が多いという実態があります。
これは、「適切な知識と自己決定権を持ち、自分の意思で必要なヘルスケアを受けること」が、まだ日本でもできておらず、若い世代はもちろん、全世代の女性に対して啓発が必要です。
日本は「産まない選択をサポートしない」国?
実は、日本の「産まない選択をサポート」する点で世界的にみると遅れをとっているようです。
具体的には、「中絶薬」は、2023年4月に承認されましたが、薬の使用には入院必須で、手術と同様に高額な費用がかかります。海外を見ると、中絶の手術を公費負担する国は約30か国、イギリスやスウェーデンなどでは無料です。
また、緊急避妊薬は、2023年11月から薬局での「試験販売」スタートしました。販売価格は7,000円~9,000円。しかし、日本薬剤師会が厚生労働省から業務委託を受けて『調査研究』というかたちをとっており、調査研究に参加する一定の条件を満たす一部の薬局のみ販売可能という状況です。こちらも、海外の90カ国以上では、医師の診察を受けることなく薬局で入手できるようになっています。
避妊においても、日本は圧倒的にコンドームの使用が多いですが、海外ではコンドームは性感染症予防のためのもので、避妊の仕方は多様です。マッチくらいの大きさで、妊娠を防ぐホルモンを出す腕に入れる避妊具や、上腕、腹部、お尻、背中のうち1箇所に貼ることでホルモンが出て妊娠を防げるシール型の避妊具など、さまざまな選択方法があり、避妊の成功率も高いです。
アフターピルについては、日本は処方が必要で1〜3万円かかりますが、海外の多くでは薬局で販売しており、1000〜5000円程度で購入でき、医療機関では無料になることもあるそうです。
授業では、グローバルスタンダードな性教育を実施できない
こうした情報を知るためには、ただ避妊の仕方を知るのでなく、「性」そのものを正しく知る必要がありますが、残念ながら、日本では性教育についても、グローバルスタンダードではないようです。性教育について、国際スタンダードとして、基本的人権として「包括的性教育」(Comprehensive Sexuality Education)」を掲げ、2009年にユネスコは、世界保健機関(WHO)などと協力して「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を発表しています。これは、性を人権の視点でとらえ、幼い時から体系的に学ぶものになっています。
ガイダンスの内容は、性をより広い視点としてとらえ、月経やセックス、避妊だけではなく、パートナーとの関係性や、性行動を選択するための価値観やスキル、セクシュアリティやジェンダーなども含むものになります。
世界各国では、女子にも男子にも必要な教育として、「精通」と「月経」を同タイミングで教える性別(ジェンダー)で分けない教育を推進されています。 日本では、小野氏によると、実は1990年代ころは、性教育を人権教育であるという先駆的な考えがありましたが、2007〜2017年の10年で学校での性教育の時間が激減し、学習指導要領の中で避妊、性交、中絶は取り扱わないという、「歯止め規定」があるそうです。現状、女子には小学4年生で月経(生理)教育を実施する学校が多い反面、男子への教育は実施されないことがまだ多いようです。
2023年7月に「不同意性交罪」に刑法改正、性的同意の重要性
ジョイセフの調査では、「気が乗らないのに性交渉に応じた経験がある」という質問に対して、女性(15〜29歳)46.5%、女性(30〜64歳)63.5%、男性(15〜29歳)26.4%、男性(30〜64歳)39.8.%となっており、女性に多く年齢が高くなるとより多く、そして既婚だとより高くなることがわかりました。これは、パートナーであれば性的同意はいらないという認識がまだ強いからではないでしょうか。
2023年7月に「不同意性交罪」に刑法改正がされました。今までは被害者が抵抗していることが認められないと罪に問われませんでしたが、改正により同意がないと罪になります。他にも「性交同意年齢」の13歳から16歳となり、16歳未満への行為は処罰されます。年齢が近い者同士の行為は罰せられませんが、13〜15歳では5歳以上年上なら相手が処罰対象になるそうです。
性加害については、最近多くの報道がされていますが、男女間におこるものから、男性同士についても性加害・被害となるという認識が広まってきました。
多様な性、LGBTQからSOGIへ
SOGI(=Sexual Orientation & Gender Identity)とは、性的指向と性自認のこと。LGBTでは、LGBは性的指向、Tは性的自認という固定したカテゴライズ分けしているということから、すべての人の性的指向、性自認を自由に表現するSOGIということばが使われるようになってきているそうです。
バイアスに気づくことで、私たちは選択できる
学び、知識を得ることで、バイアスに気づくことができます。例えば、前述のSOGIについて知らなければ、実はこの問題で悩んでいる人に気づくことができず、傷つける行動をとってしまう可能性があります。
小野氏からメッセージとして、自分の中に無意識の中にあるジェンダー偏見(固定観念や思い込み)と向き合うことの大切さ、そして、健康で、選択の幅があり、それを自分できめることのできる社会、一人ひとりが違っていい、すべての人が自分らしく生きられる社会をつくっていきましょうと呼びかけられました。
(I LADYサイトより引用。SRHRに関する幅広い情報提供を行い、一人ひとりのアクションのきっかけをつくるプロジェクト「ILADY」の活動)
第2部は(株)ウェルネスライフサポート研究所代表の加倉井さおりがファシリテーターとなり「みんなで考えるセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」をテーマに。ブレークアウトルームで参加者同士が話し合う時間が設けられた後、参加者から発言をいただきました。
「日本においてもSRHRが重要であること」「貴重な情報が得られたこと」。そして「男性の理解の大切さ」「男性の生きづらさ」についてなど、SRHRの重要性や男性の理解の必要性が共有されました。
㈱ウエルネスライフサポート研究所代表の加倉井さおりからは、「現実を知ったことにより、考えさせられ、自分に何ができるかなど多くのことを感じる機会になったと思います。男性でも女性であっても誰もが自分らしく生きることができる社会を創るために、私たち1人1人が何ができるのかを考え、行動すること。1人1人が影響力がある存在であることを自覚して、これから行動をしていきましょう。」と話されました。
今後もジョイセフの活動やSRHRに関する理解が深まり、ジェンダー平等の実現に向けた取り組みが進むことが期待されます。
WOMANウェルネスライフ研究会では、次回は意見交換できる時間をもっと多くし、このテーマを考えていく機会を創っていきたいということでした。次回の企画も楽しみです。
(レポート:Mika Masaki)
今回の講演を通して感じたこと
今回登壇いただいた小野さんと私とのご縁は、長くお世話になっている産婦人科医高尾美穂先生が「加倉井さんに繋げたい人がいる」と、ご紹介下さったことがきっかけでした。
ジョイセフの活動報告に参加した時のスリーショット写真です。
こちらのブログもご覧ください。
私が感じたことは、男女共にセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)を学び、自分の健康、人生を自ら選択できる、そして他者との違いも認め合える社会を創っていきたいということでした。そのためには、私の学びの場に集まる全国の保健師、看護師、助産師の皆さんには、それぞれの現場で学んだことを実践に繋げてほしいと願ってます。
想いを行動に繋げる。
想っているだけでは社会は変わらない。
私がライフテーマとしている「誰もが自分らしく健やかに幸せに生きる勇気づけのいのち育て」ができる社会のためにも、今回のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツはとても大切な課題だと感じています。
早速アンケートには、沢山の感動と行動していきたいというお声が届いています。今回もっと皆さんとのディスカッションの時間を取れたらと思いましたので、次年度は第2弾を企画したいと思っています!
ご多忙の中、エネルギー溢れるご講演をいただいた小野さん、そしてご参加下さった皆様、ありがとうございました。(加倉井さおり)
WOMANウェルネスライフ研究会の今後の活動予定、入会方法などについて詳細は、WOMANウェルネスライフ研究会ページをご覧ください。
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