「骨盤底筋というと、尿もれ(尿失禁)のことかしら」と女性の健康に関心のある方なら、思われるかもしれません。実際、尿もれは、40歳以上の女性は年に1〜2回は普通に経験するともいわれており、ホットな話題のはずですが、健康課題としてとらえている人は意外と少ないのではないでしょうか。
WOMANウェルネスライフ研究会の発足記念講演にもご登壇いただきました、イーク表参道の副院長である産婦人科専門医でありスポーツドクターでもある高尾美穂先生に3周年記念講演としてご登壇いただきました。今回は初のオンライン開催になりましたが、高尾先生の熱い講演3時間に皆さんが魅了され多くの学びと気づきをいただく研究会となりました。
生涯を通じた女性の健康を考えるために、尿もれを健康課題としてとらえることの大切さから、骨盤底筋とはどこにあり、どのような形でどのような役割をしているのか、そして尿もれ予防への新しいアプローチとなる体操などをご講演いただきました。
超高齢社会のなかで「長寿」を楽しむために
日本は超高齢社会を迎えています。2025年には4人に1人が後期高齢者となり、2040年には1.5人の現役世代(生産年齢人口)が1人の高齢者を支えるという、「肩車」型の社会になるといわれています。
現在、女性は健康寿命と平均寿命の差は約12年。これは日本の医療体制のよさが大きく影響しているとも考えられますが、このまま医療費が増加していくと、今のような医療は受けられなくなるかもしれません。
ですから、これから高齢期を迎える私たちができるだけ健康でいて、支えられなくてもいい高齢者となり、周囲にもその輪を広げるとり組みをすすめていくことが必要です。人生はゲームのようにはリセットできません。体からのサインをキャッチして、日常生活のなかで健康的な選択をしていくことが大切です。
高齢期をいきいきと過ごすためには、
- 歩けること
- 自分の歯で食べること
- コミュニケーションをとること
- QOL(生活の質)を高めること
があげられます。
QOLを高める1つとして尿もれが課題になります。
例えば、高齢期の楽しみの1つである「旅行」。なかでもバス旅行は人気ですが、尿もれは、休憩までトイレに行けないことやバスのなかでの匂いを気にするなどから、外出をためらう要因となっています。
そう、尿もれは、死にはしないが、楽しく人生を過ごすことへの妨げになります。ただ、尿もれは話題にしにくく、少しがまんすればいいと考えてしまい、健康課題としてとらえにくいというのが現状です。
女性ホルモン エストロゲンについて
エストロゲンは生涯を通じて女性に大きく影響する
初潮、妊娠・出産、閉経など女性の体の大きな変化には、女性ホルモンともいわれるエストロゲンが大きくかかわっています。エストロゲンは、視床下部が命令を出し、下垂体そして卵巣に命令が届き、分泌されることで、月経をおこし、肌、髪を美しく保つ、女性らしい体つきをつくります。
更年期となりエストロゲンが出にくくなると、視床下部は命令に従わないととらえてしまうために自律神経のコントロールが乱れて、いわゆる更年期の症状があらわれます。ちなみに、更年期に症状が出るのは6割、その半分にあたる3割は治療が必要となりますが、全体の4割は、ただ月経がなくなるだけで他に症状はないといわれています。
エストロゲンの変化は体内にも大きな変化を及ぼす
他にも、エストロゲンは、目に見えないところ、コレステロール値の上昇を抑える、血管の弾力を高める、骨を丈夫にする、筋肉をキープする、自律神経を保つなどの働きをします。このように全身に影響するのは、エストロゲンをキャッチするレセプターが、子宮などの内臓や筋肉、神経などの全身にあるからです。
閉経してエストロゲンがなくなると、筋肉にいたレセブターはエストロゲンをキャッチできなくなり、筋肉量が減少してしまいます。この筋肉量の減少のサインとしてあらわれるのが、尿もれなのです。
女性がエストロゲンの分泌がない時期とは、閉経以降以外では、産後の授乳期間。すなわち、産後はエストロゲンがないために筋肉が減ってしまい、高齢期と同じように尿もれがおこりやすいと考えられます。
高齢期の健康問題の多くはエストロゲンがないため
ここ70年で、女性の寿命は40年も伸びていますが、卵巣機能は1年くらいしか伸びていません。
女性の長寿は、閉経以降という、女性ホルモンの機能がない期間を伸ばしました。
つまり女性の高齢期の健康問題の多くは、エストロゲンがなくなることの体内の変化からおこるQOLの低下といっても過言ではないのです。
尿もれと骨盤底筋
尿もれとはなにか
尿もれの定義は、「尿を出そうとしていないときに尿がもれるという訴え」のこと。
尿もれを大きく分けると、くしゃみや咳、立ち上がった瞬間にもれる腹圧性尿失禁が6割、トイレまで間に合わない切迫性尿失禁が1.5割、混合型が2.5割。そのため多くの場合、腹圧性尿失禁の予防・治療となる「骨盤底筋」のトレーニングが有用です。
尿もれは、妊娠中に9割程度は経験があり産後1年くらいでほぼ治りますが、この治るまでの長さが、以降の人生における尿もれのリスクをあらわします。産後の尿もれは、今後の尿もれのリスクを意識し、予防を心がける機会としてとらえることができます。
骨盤底筋のダメージは人それぞれ
妊娠・出産は、骨盤底筋にダメージを与えます。
子宮は通常は50g程度ですが、妊娠すると胎児や胎盤などで約10倍の5000gにもなり、この重さを支えること自体はもちろん、出産時に「いきむ」ことが負担を大きくします。経膣分娩や鉗子分娩・吸引分娩、帝王切開などの分娩方法や出産回数によってもダメージの度合いは変わります。
また、出産以外にも「いきむ」すなわち腹圧がかかる動き、例えば咳やくしゃみ、重いものを持つ、便秘などもダメージを与えます。
他にも、前述したエストロゲンの低下や、加齢による筋力の低下なども骨盤底筋が弱る要因です。
骨盤底筋とはそもそもどんなもの?
骨盤底筋を鍛えようと思っても意識するのはなかなか難しいもの。
あるアンケートでは、ほとんどの人が骨盤底筋を意識しようとしても「できなかった」と回答しています。
そもそも骨盤底筋は、どんなものでしょうか。
人類は四足歩行から二足歩行になったため、横に並んでいた内臓は縦に並ぶようになり、そのままでは下に落ちてしまいます。その内臓を下でキャッチするように、お椀の形をしているのが骨盤です。
このお椀の形の底には、尿道、膣、直腸のための穴が開いています。この穴で内臓が落ちないように、穴を閉じるための筋肉が骨盤底筋です。
骨盤底筋はハンモックのような形で、膀胱、子宮、腸を支えています。大きさは120〜150mm2(羽付きナプキンくらい)、厚さは6〜9mmとなります。
CT画像で見てもらうとわかりますが、骨盤底筋は薄く小さく、その形状は人それぞれ。ハンモックの形はしていても、縦に伸びてY型の人、それほど伸びていないT型の人。高齢期になるとY型の人が多く見られるようになります。
骨盤底筋はインナーユニットの1つ
また、骨盤底筋は、体幹の深部にある腹腔壁を構成する4つのコア(インナーユニット)の1つで、この4つの筋肉はお互いに連携しています。
インナーユニットの1つである腹横筋は、手足などの筋肉をコントロールする働きをします。産後の女性アスリートが筋肉の動かし方がうまくいかない要因として、インナーユニットである腹横筋や骨盤底筋が、妊娠・出産でダメージを受けているからと考えられています。
そのため海外の研究では、産後のアスリートに骨盤底筋のトレーニングがすすめられています。
骨盤底筋の構造を知り、新しいアプローチとしてのトレーニングを
骨盤底筋は、持久力はあるが太くなりにくい遅筋の線維が多く、筋肉量が増加しにくい筋肉です。
しかし、筋肉のなかでも、コントロールできない平滑筋ではなく、コントロールできる骨格筋であり、何より筋肉はトレーニングすれば確実に低下を防ぐことができます。
骨盤底筋の構造は、3層で構成されており、8の形をした表層部分、2層目の「尿生殖隔膜」で上半分、3層目の「骨盤隔膜」で全体を覆っています。
「骨盤隔膜」は別名肛門拳筋といわれ、他の大きな筋肉とつながっています。
意識しにくい骨盤底筋ですが、新しいトレーニングとして、骨盤隔膜につながる大きな筋肉を動かす※ことで骨盤底筋を鍛える、そんなアプローチをとり入れることもおすすめです。
多くの女性に早い時期から骨盤底筋を意識してもらい、長生きになった女性の人生を俯瞰してとらえ、健康的な選択を心がけていただければと思います。
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高尾先生のご著書から「ワイドヒップリフト」など具体的な骨盤底筋を鍛えるヨガのご紹介もありました。是非、ご著書もお読みください。
著書:「超かんたんヨガで若返りが止まらない! 老けたくないなら、骨盤底筋を鍛えなさい 」(健康美活ブックス)
病院HP:イーク表参道 http://www.ihc.or.jp/
毎日の生活の積み重ねが人生を作ります。
アンケートでも、骨盤底筋を鍛えるヨガを毎日やりますというお声も多く、自分の生涯における健康習慣を意識するだけでなく周りの女性達にも伝えていきたいというお声もありました。
このWOMANウェルネスライフ研究会では、すべての女性の「健やかに、自分らしく、幸せに生きる」を支援するために、職域を超えて様々な立場の方々と繋がり、学び、実践していくための研究会として、これからも継続していきます。
また皆様のご参加をお待ちしています。
WOMANウェルネスライフ研究会入会方法について
WOMANウェルネスライフ研究会は医師・保健師・助産師・看護師などの保健医療スタッフだけでなく、人事・労務、キャリアコンサルタント、セラピスト、また働く女性としてなど様々な立場の方が、女性の「健やかに、自分らしく、幸せに生きる」を支援するために、共に学び、繋がり、実践する研究会を目指しています。違う立場の方が、集い交流する場は、とても刺激的で新しい視点を得られ、、また多様性理解や新しい発想を生み出すと思っていますのでご興味ある方はぜひご入会ください。
【WOMANウェルネスライフ研究会】
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ご入会いただいた方には、欠席分の資料、アンケートもお送りいたします。
開催報告記事はこちら↓↓↓
【募集中】第5回2021年2月13日(土)14時~17時 六本木セミナールーム
「私たちの働く女性の健康支援実践報告」
健康経営でも「女性の健康支援」の課題が明言されています。皆さんの会社ではどのような取り組みをされていますか?まだまだ女性の健康支援は取り組み始めたばかりの企業が多いと思いますが、今回は明治安田生命保険相互会社様とセキスイ健康保険組合様で女性の健康教育を取り組んでいる保健師の方に実践報告をいただきます。貴重な他社での実践事例、是非ご参加いただき学び合いましょう!
◆テーマと発表者
「明治安田生命保険相互会社における営業職女性への健康支援実践例」
発表者: 明治安田生命保険相互会社 人事部 健康増進グループ
二藤部 貴美氏(保健師)
「セキスイ健康保険組合における女性の健康支援の取り組み」
発表者:セキスイ健康保険組合 茨城西担当 島田留津氏(保健師)
◆定員:30名(申込先着順にて締め切り)
◆参加料:一般5,000円(税込み)WOMANウェルネスライフ研究会会員3,500円(税込み)
詳細とお申込みは、「【募集:2020/3/7】第4回WOMANウェルネスライフ研究会 【私たちの働く女性の健康支援実践報告~実践までのストーリー&取り組みから学ぶ」ページをご覧ください。
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