求められる働く女性の健康支援、実際の現場は?
女性活躍推進の時代といわれ、働く女性は増えています。
また、健康経営でも「女性の健康支援」の課題が明言されています。
しかし、実際のところ、働く女性の健康支援はなかなか難しい。まず、第一に職場で理解が得られにくい。
そしていざ実践するとなっても、何を、どこから、どのように進めていくべきか、悩んでいる方は少なくないのではないでしょうか。
今回のテーマはまさに"働く女性の健康支援"について。
今回研究会は、働く女性の健康支援を進めてきた、人事担当者、そして産業看護職のお二人に、実践までのストーリーと具体的な取り組みを、それぞれ発表していただきました。
そして、発表を元に「働く女性の健康支援で何ができるか、何から始めるか」を発表者参加者ともに考えていく場となりました。
事例発表1. ㈱乃村工藝社 人財管理本部 人財開発部 ダイバー シティ課 渡辺恭子氏
やりがいのある仕事として魅力的な会社。だが…
乃村工藝社は127年の伝統をもつ企業。事業内容は、東京スカイツリー・東京ソラマチやサンシャイン60展望台などの空間を企画・デザイン・設計・施工等により、創造・活性化するという、クリエティブでプロフェッショナルなものです。社員にとって仕事はやりがいと面白さを感じるもので、繁忙期などは残業が多く休みがなくても、仕事が好きで働いているといった会社でした。女性社員の割合は3割程度ですが、育休復帰率は100パーセント。これは仕事のやりがいが大きく関わっていると感じています。 女性の健康支援は、担当者としては以前から推進したいと考えていましたが、「まずは全社員が利用できる制度を優先しよう」というのがその頃の会社の認識でした。
経営トップの危機感が、推進の力に
ところが数年前に、初めて複数の現役社員を病死という形で失ったこと、そして社員の平均年齢も上がっているという現状に、経営トップは「大切な社員を守らなくては」と強い危機感をもち、「働き方改革」の加速宣言を出しました。宣言では、社員の健康確保と生産性の向上の両立した職場環境の構築を創造していくとしています。 これにより、全社員はもちろん女性の健康支援も動き出し、現在では健康診断の際に子宮がん・乳がん検診が必須項目(全額会社負担)、女性保健師による女性専用健康相談日や女性専用休憩室の新設、女性健康セミナーの実施などが行われています。 女性健康セミナーにおいては、内容は「自分が知りたいこと」にこだわり、担当者みんなで話し合い企画しています。だからこそセミナーに参加してほしい。そのため人事という立場を生かし、個々にメールでアプローチするなど積極的な集客を行っています。 また、女性専用休憩室「NEST ROOM」は入社2〜3年の女性社員の提案から実現したもので、小型冷蔵庫も完備し搾乳にも使えます。 全社員向けには「リセットスペース」として、会話する、くつろぐ、飲食する、集中する、体を動かすといった5つの役割を持つスペースを設置しました。空間を創造し活性化を提案している会社だからこそ、社員もこの効果を実感しやすいと思います。他にも健康ポイントの導入、歯科検診の補助などの健康施策や、働き方の選択を増やす取り組みなども行われています。
同僚への思いを胸に、満足度ではなく、幸福度を高める企業に
病気で亡くなった社員は、一時回復したときに、「自分は自分の体のことを省みていなかった。がん検診の重要性についてぜひ社員みんなに伝えたい。」と言っていました。残念ながら、容態が急変したことで実際には叶わなかったのですが、この想いは社内で共有され、今の健康支援の推進につながっていると感じています。
これからは、福利厚生の充実による満足度だけでなく、心身はもちろん社会的にも満たされているwell-being=幸せな社員を増やすことを目指して活動していきたいと考えています。
事例発表2.富士通㈱ 健康 推進本部 健康支援室 一木ひとみ氏
健診結果時を女性の健康支援の場としてスタート
富士通(株)は、ICTという手段で価値提供する会社で、社員数はグループ会社も含むと約14万人にもなり、職種も営業、SE、開発など多種あるため、事業所ごとにかなり特性をもっています。女性社員の割合は全体約15%、所属先である本社は約20%となります。
現在の「女性の健康支援」は全社の健康教育活動の一つであり、健診結果時の情報提供と女性の健康週間(3月第1週)に開催するイベントを中心に活動しています。
もちろん、はじめからこのような事業だったのではなく、2000年の健診時の教育説明会からスタートしました。健診結果にプラスして、コレステロール、女性ホルモンなどの女性特有の健康情報や、婦人科検診の勧奨など、女性の健康支援を段階的に行っていきました。 イベントについては、2007、2008年は、健康フェスとして女性健康セミナー、2009年は乳がんセミナー、2010年からは、女性の健康週間に合わせてセミナーを開催しています。
女性の健康支援の重要性への理解のために
私は産業看護職という立場から、現場の社員と日々かかわり、さまざまな世代の声を聴くことができます。女性社員からは、「月経異常」「不妊治療」「更年期障害」など女性特有の症状はもちろん、働く女性として「妊娠出産の時期」や「女性としてキャリア形成」などの悩みを聴いてきました。だからこそ、女性の健康支援の大切さを痛感し、女性の自己効力感アップやキャリアビジョンの形成のために、女性への配慮が不可欠であると感じています。
ただし、これが「女性だけ」の問題ではないことを会社にきちんと知ってもらうことが必要です。女性の健康支援が生産性の向上にどのように役立つかなど、健康経営の視点やエビデンスのあるデータを使い、会社として受け入れやすいように情報提供することも、産業看護職の重要な役割だと考えています。
アンケートの実施から他部署との協働へ
大きな転機は2015年。女性社員にアンケートを実施したことです。このアンケート結果と健診結果データから、世代別の女性の健康課題を見つけ、健康動態として社内に報告。これを契機に、人事と健康課題を共有し、協働を依頼しました。会社としてのニーズに配慮して、支援の優先事項を決め、年間計画を立て、組織として事業を実施しています。もちろん全てが順調というわけではなく、セミナーの集客に苦労した結果、面接時にセミナー内容のニーズを聞くようにするなど、PDCAを回しながら、いろいろな試みをしています
これからの課題は、女性支援を推進するために、社内の他部署(ダイバーシティ室、福利厚生部、健康保険組合など)と、より協働を進めていくこと。他部署の活動を知ることも重要です。そして今後も産業看護職として、女性支援の理解者そして代弁者として、組織に働きがけたいと思っています。
㈱乃村工藝社の渡辺様からは、女性の健康支援を実現させていく背景にあった社員の方との想い溢れるストーリーのご紹介をいただき胸が熱くなる想いでした。また女性専用休憩室「NESTROOM」のご紹介にも環境からの女性の健康支援も大切な要素だと多くの方が感じたと思います。 富士通㈱の一木様からは、企業内の女性への生活習慣、月経トラブルや更年期症状などのアンケート調査を実施され、実態把握したうえでの女性の健康支援をされてきたストーリーを事例発表いただきましたが、具体的な看護職としての支援や他部署との協働での活動など、働く女性の声をよく聞いて健康支援をされてきた内容をご紹介いただき、大変参考になる内容でした。
各社で共通する社員の幸福度の向上、女性への支援
後半は、㈱ウェルネスライフサポート研究所代表の加倉井さおり氏のファシリテーションで事例発表をもとに、グループワークで「実践報告を聞いて、感じたこと」「何ができるか、何から始めるか」を話し合い、情報をシェアしました。
ワーク後にそれぞれグループごとに発表。このセミナーは、様々な所属や職種の方が参加しているため、視点がそれぞれであったり、意外と共通に感じることも多かったりするのが面白いところです。
具体的には、職場環境の大切さ、他部署との情報共有・連携の重要性、実際の情報提供のための資料、セミナーの企画内容や成功のための秘訣、アンケートによる現状把握の重要性という、実際の事業内容への関心と、社員の幸福度という視点、女性支援を実施したいという想いへの共感などが挙げられました。
こうした内容をシェアすることで、参加者自身の実践のヒント、そしてモチベーションを得る場となりました。
最後に主宰者の加倉井より、発表者の職場は女性社員が少なく、女性の健康支援を提案しても、上司はまだそれほど認識がないという「難しさ」からスタートしたにもかかわらず、それを乗り越えて支援を進めている。その想いやそのストーリーを紹介したかった。また支援自体のハードルを下げ、できることからスタートしてもらいたい、そして今日の研究会で得たものを、ぜひ自分の職場に持ち帰ってもらえたらと、メッセージが送られました。
参加者にとって女性の健康支援への想いをより熱くした一日でした!
次回は7月20日に開催予定しています。
「実践報告を聞いて、感じたこと」参加者の記載を一部抜粋
●社員の満足度でなく幸福度を高めること。仕事における幸せを実現しながら働くことができることは素晴らしいと思う。
●空間が生産性の向上につながる、休憩時間も効率をあげるために必要。
●女性も男性も我慢することに慣れてしまっているのかもしれない。特に女性は〝身体の不調〟について我慢しがちだと感じた。
●「こうだったらいい」をもっと発信し、それに応えることが結果的にいい仕事につながる気がした。
●「女性の」と特化すると、かえって男女の溝を深めてしまうのではと思ったが、女性の健康づくりの波(ブーム)があるなら、やってしまうという発想に勇気付けられた。
●働く男女の人数差、管理職比など見ると、まだまだ男性視点が強いので、もっと女性活躍を推進した方がいいと思った。
●女性がいれば(例え少なくても)、どこでも健康支援は実践できると思った。
●仕事を優先して、ストレスを抱え、体調変調を起こしているのではと思う人も見受ける。自らの身体の声に耳を傾けることができていないのではないか。
●女性の健康週間などを活用したイベントの実施。
●他部門と連携して企画する。
●良いパフォーマンスを出すためには、社員の健康や環境が大切。
●健診や健康管理を促す啓蒙が大切(健診時に合わせて情報提供、セミナー、測定会)。
●女性のアンケートで実態把握は必要だと感じた。
●もっと女性社員の声を聞く必要があるが、健診にひっかからないので話す機会が少なく、ニーズが十分に把握できていない。
など。
「何ができるか、何から始めるか」参加者の記載を一部抜粋
●ランチセミナーとしてニーズの高いテーマ(ストレス対処法、睡眠、運動などのテーマをやりたい)を取り上げたい。
●働くママ限定のランチ会などの支援をしてきたい。
●女性支援に取り組む部門との連携をしていきたい。
●アンケートとる→まとめて傾向をつかむ→必要なイベントの開催と展開していきたい。
●他社の取り組みを伝えて、いろいろな人を巻き込んでいく(応援者を作っていく)。
●健保の保健師さんに「保健師相談」以外の連携ができないか相談する。
●会社全体の方向性の確認(各部門が考えていることを話し合うテーブルをつくる)。
●短時間からのセミナーを開催したい。
●まずは、身近なところから自分の身体の声に目を向けようと思う。
●がん検診を社員にすすめたい(会議、社内イントラでの発信)。
●検診補助の交渉をしていきたい。
●今日得た他社での取り組みを職場に持ち帰って情報共有したい。
●「女性の健康について何か取り組みをしたい」という会社からの要望がきているので、チャンスにしたい!
●現状の社内研修に健康講座を組み込む。
など。
(report:Mika Masaki /photo:KayoKikuchi&ChiekoMorisaki)
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