若いうちから女性だけでなく男性にも知っていてもらいたい「プレコンセプションケア」
「妊産婦の死因の第一位は?」
「日本の第一子出産の平均年齢は?」
「30〜34歳、35〜39歳、40歳それぞれの不妊治療の成功率は?」
「不妊原因の男女の割合は?」
「妊娠中の望ましい運動量は?」
「日本と海外のHPVワクチン接種率、子宮頸がん検診受診率の違いは?」
「妊娠時に必要な葉酸摂取の時期と量、摂取の仕方は?」
あなたは正しく答えられますか。
今回の研究会は、上記の答えはもちろん、プレコンセプションケアにおける、まさに「新常識」と言える正しい知識を学ぶことができる場になりました。
ご講義いただいた重見大介先生は、産婦人科専門医であり、公衆衛生という視点から、多くの方に正しい情報を知ってもらうために、ご自身で情報発信の活動もされている先生です。また、情報提供の新しいかたちとして、「産婦人科オンライン」の代表もされています。
プレコンセプションケアは妊活の人の話?
まず、プレコンセプションケアとは、なにか。言葉どおりに訳すると、プレは前、コンセプションは受胎・妊娠となり、「大人のカップルが妊娠を考えるときのケア」ととらえてしまいがちですが、近年は、もっと広い概念として「将来の妊娠を考えながら、女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと」としています。ただ、日本のある調査では、「言葉自体を知らない」という回答が85パーセントを占め、まだまだ認知度が低いというのが現状かもしれません。
Public Health Englandの資料では、「妊娠前の健康とは、妊娠可能な年齢の女性と男性の健康行動、リスク要因、そしてより広い決定要因のことであり、これらは母体、乳児、子どもの健康に影響します」具体的な要因の例示として「母親の体重、喫煙、アルコール・薬物摂取、葉酸摂取、予防接種、長期的な身体的・精神的健康状態、過去の妊娠合併症、母親の年齢、血縁関係、家庭内暴力など」があげられ、プレコンセプションケアは「親になる予定があるかどうかに関わらず、女性・男性や、子ども・若者・大人に健康上のメリットをもたらします」と記述しています。
プレコンセプションケアの4つのポイント
重見先生は、プレコンセプションケアのポイントとして以下の4つをあげられました。
1.早いうちから妊娠、出産の仕組みを知り、適切な避妊法と妊娠の知識を持っておく
2.月経の仕組みを理解し婦人科疾患の早期発見をすることで、望むタイミングでの妊娠率を下げないようにする
3.若いうちから自身のライフプランに妊娠、出産、育児を組み込むことで、タイミングを逸するリスクを減らし、健康的な生活習慣を保つ
4.男性パートナーにも一緒に理解・行動してもらうことで、効果を最大限に保つ
1の中の情報の一つである「最も妊娠しやすい時期」について。排卵日の2日前から当日が最も妊娠率は高まるが、予想の難しい月1回の排卵日を狙うのは難しく、妊娠率を高めるためには、2〜3日ごと、排卵日前頃はできれば1日ごとに機会を持つことが現実的。他にも「各避妊法の失敗率」「低用量ピルや子宮内システムの知識」についてお話しいただきました。
2では「月経困難症に潜む疾患」「過多月経に潜む疾患」「月経前の不調やメンタルヘルス」「不正出血に潜む疾患」。
3では「年齢ごとの妊娠率」「不妊治療成功率の実情」「妊娠中〜産後のうつ症状」「喫煙、葉酸摂取、運動習慣、予防接種(HPVワクチン含む)など」。
4では「肥満や喫煙、過度の飲酒は男性不妊のリスク」「妊娠中の副流煙(電子タバコを含む)の危険性」「パートナーの感染症対策も重要(風疹ワクチン、おたふく風邪ワクチン、インフルエンザワクチンなど)」
あまりに多くの情報をいただきましたので、項目だけあげましたが、重見先生からは、具体的な数値や臨床の事例などをまじえて、4つのポイントそれぞれについて、まさに「新常識」となる、最新の知識を教えていただきました。
具体的なプレコンセプションケアのチェック項目から
また、具体的なプレコンセプションケアのチェックとして、国立成育医療研究センタープレコンセプションケアセンターのプレコンセプションケア・チェックシートをご紹介いただきました。
(国立成育医療研究センタープレコンセプションケアセンターサイト)
全部で女性版は20項目。この中から、葉酸摂取、健康的な運動習慣、ストレスと不妊や妊娠の関連、ワクチン接種への疑問、がん検診、そして歯の健康についてピックアップしてお話しいただきました。
共通するのは、健康的な妊娠のために必要不可欠なケアであることはもちろん、妊娠の前から、知っておくべき情報であり、身につけておくべき健康的な生活習慣であることです。とくに、ワクチン接種の有無と妊娠時のリスクの関連性は関心が高いと感じました(第2部で多くの質問がありました)。
また、チェックシートは女性版だけでなく、男性版があります。ここでも、プレコンセプションケアは、女性だけでなく男性も必要な知識であることを再認識しました。
企業/組織側から見た働く女性の健康支援のポイント
次に、重見先生が企業組織側から見た働く女性の健康支援のポイントとして、
第一に「適切な情報取得と疑問の解決」をあげられました。ネット社会では、玉石混交の情報が氾濫しており、正しい健康・医療情報を、女性従業員が個人で得ることはなかなか難しいでしょう。そこで社内掲示板やセミナーなどで正しい情報を得る場を作ること、また女性特有の疑問や不安を相談できる仕組みづくりも重要としています。
第二のポイントは「生活習慣の改善」です。特に、体温や月経期間だけでなく、体調の変化やストレスの状況なども記録することで、月経のリズムを把握し、現実的な手立てを打つことが(例: この時期には仕事負荷を調整するなど)、生産性の向上にもつながります。
第三のポイントは「男性へのアプローチ」。職場には多くの男性がいます。プレコンセプションケアという意味では、男性の同僚、上司も巻き込んだ取り組みができるとよいとのことでした。
ただ、女性従業員の約47パーセントが第一子出産を機に離職し、退職の理由1位は「仕事と子育ての両立が困難」という現実があり、プレコンセプションケアだけでなく、産前産後のサポート、切れ目のないサポートを整備することが鍵とのことでした。
今求められる、専門家への窓口「産婦人科オンライン」
ここで面白いデータをご紹介いただきました。女性従業員に対して「女性特有の健康課題などで職場であきらめなくてはならないと感じたことがありますか」という質問に、「あきらめた経験がある」のは約4割。そしてその際に女性従業員の求める支援は、人員配置の工夫、休暇制度活用の普及、社内のコミュニケーションが上位3項目。この支援内容は、なんとなく想像の範囲内かと思いますが、これに対して、管理職の求める支援は「専門家への窓口」が圧倒的な1位となっています。つまり、管理職は女性特有の症状に対応できずに困っているというのが正直なところなのかもしれません。また、コロナ禍ということもあり、オンライン相談窓口のニーズか非常に高くなっているようです。
こうした企業ニーズに対応した、スマートフォンで利用できる「産婦人科オンライン」(https://obstetrics.jp)をはじめ、医療記事の配信や講演など、重見先生の関わるサービスについても説明いただきました。
そして最後に「プレコンセプションケアは妊娠を望む/望まないに関わらず健康維持にも大切。正しい知識を持ち、環境を整えていきましょう」というメッセージにて、第1部は終了となりました。
第2部では、加倉井先生は、重見先生に講演をお願いするにあたり、重見先生が発信されている「包括的性教育」や「プレコンセプションケア」の大切さをとても感じたこと、そしてこれらを学ばぬまま大人になってしまった多くの働く人たちへ、企業の中でこの大切さを伝えていけないかという思いがあったと語られました。
以降は、加倉井先生をファシリテーターとして、参加者からの質問に重見先生が回答されました。
Q. 専門職として正しい知識を伝えるために情報提供・発信で心がけていることは?
A. 専門職の視点で話すと、一般の対象者とは前提とする知識にギャップがある。伝える内容が対象者の知識のレベルに合っているかを意識し、想像ではなく1つ1つ聴きながら、実際に相手と対話していく。また一方向で発信するときは、発信先の知識レベルを考慮して、言葉を選び、どの段階から解説するべきかなど気をつけている。
また、専門分野では自分自身は誰よりも詳しく正しい情報を提供できるという自信がある。それは専門職として誰にも負けないと自負するくらい勉強をしているから。可能な限り、正しい情報を提供できる準備をしておくことは専門職としての責任であり、日々情報をアップデートしていくことを心がけていくべき。
Q. プレコンセプションケアの講演を企画しても、関心が高い妊娠希望の女性がメインになってしまいます。他の対象に対して啓発するにはどうしたらいいですか。
A. 関心のない対象者には、自分ごととしてとらえてもらうための工夫が必要。対象者自身に影響のある具体的な情報を提供すること。また、対象者が想像できるストーリー(事例など)をおり混ぜて伝えるようにするとよい。
Q. 男性が多い職場で、プレコンセプションケアに関心を持ってもらえません。
A. 職場での啓発では、現実的には確かにやりにくいかもしれない。突破方法として、理解のあるキーパーソンとなる人物を見つけて、そこから連携していく。そして、男性社員にまずは「プレコンセプションケアの最低限の理解」を求めていく。
産婦人科オンラインは、「健康経営という視点から」「女性従業員の離職を防ぎたい」といった企業が導入している。導入企業の従業員からは「相談機関が社外であると相談しやすい」「専門的にアドバイスをもらえる」と好評を得ている。また、人事・福利厚生担当からは、相談内容を概要として伝えることで、今まで届かなかった困り事や本音を知ることができたという声をいただいている。
他にもワクチン接種について多くの質問が寄せられました。
Q. HPVワクチンの有効性はどのくらいですか。ワクチン接種後に子宮頸がんになる人はどのくらいいますか。また定期接種以降でも自費で受けるメリットはありますか。
A. ワクチン接種を受けた人と受けていない人の経過を20年ほどかけて調査した大規模調査の結果が2020年に発表されたばかり。受けた人は、全世代で子宮頸がんの発症が63パーセント減少となり、定期接種の時期(17歳頃まで)に受けた人は90パーセントの減少になった。定期接種時期以降に受けた人では、55パーセントの減少となった。
世界的には、ワクチン接種は27〜28歳までは全ての女性にメリットがあると考えられ推奨されているが、28〜45歳はパートナーとの関係などによるので医師へ個別相談するのが望ましい。
日本では、8年前に接種後に全身の症状やけいれんが出たという報道が過熱して、定期接種としての推奨がストップしているが、世界的には安全性について研究された結果、全身の症状やけいれんなどのリスクとワクチン接種は関連性がないというエビデンスが多数出ている。オーストラリアでは学校で集団接種しており、女性だけでなく、男性にもワクチン接種が実施されており、国として「子宮頸がんの撲滅」が近い将来可能だと推定されている。
Q . 「将来的に子どもに影響が出るかはわからないので不安です」とコロナワクチン接種に消極的な妊娠後期の妊婦の方にどのように情報を伝えたらいいですか。
A. まず不安を受け止める。そして将来的なリスクとして、新薬なので影響についてデータは出ていないが、基礎研究レベルでは、ワクチンのメカニズムからは影響が起こるとは考えにくいとされていること。そして、目の前のリスクとして、感染すると妊娠後期は重症化や早産リスクが高まることを伝えては。
Q. 風疹のワクチンの有効期間はどのくらいですか。大人になってから接種を受けるべきですか。
A. 個人としての実感だが、妊婦で抗体が足りていない人が1割程度いるのではないか。理想的には、妊娠を考えるときに、抗体が一定レベルあるかどうか測定して判断するのが望ましい。
などの質問にご回答いただきました。
今回の研究会では新しい知見をたくさん学ぶことができて、とても視野が広がる刺激的な研究会でした。重見先生は講演の前に、「誰よりも詳しくプレコンセプションケアを知ってもらえる内容を伝える。ぜひ周囲にもシェアしてもらいたい」とおっしゃっていましたが、まさにそのとおりのご講演になりました。
(レポート:Mika Masaki)
WOMANウェルネスライフ研究会の今後の活動予定、入会方法などについて詳細は、WOMANウェルネスライフ研究会ページをご覧ください。
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