第5回WOMANウェルネスライフ研究会 「私たちの働く女性の健康支援実践報告 ~実践までのストーリー&取り組みから学ぶ~」がオンラインにて開催されました。
今回の研究会は、2部構成。1部は、セキスイ健康保険組合千葉・茨城西担当の保健師、島田留津さんから、「女性の健康支援の取り組み」について実践報告していただき、2部は代表の加倉井さおりさんから「コロナ禍での働く女性の健康支援、何ができるか、何から始めるか」を話題提供。それぞれの発表後に、グループミーティングが行われました。
研究会の参加から、「女性の健康支援」の健康教室の実践に
島田留津さんは、2018年に開催した本研究会の第1回に参加され、参加後すぐに女性の健康づくり支援を実践したいと思い、実際に行動へとうつされた方。自己紹介によると、中学生の頃から、へき地の看護師保健師を目指してキャリアを考えていたそうです。
こんなふうに書くと、とてもエネルギッシュな方を想像するかもしれませんが、印象はとても穏やかで優しい。語り口もゆったりとしていて、相手のこころにすっと入っていく、そんな雰囲気をもつ女性です。
島田さんの所属されるセキスイ健康保険組合では、全国33地区をそれぞれ一人の保健師が担当し、担当の各事業所を巡回して健診後の保健指導業務を中心に活動しています。今回は保健師業務のなかの1つ、健康教室についてお話しいただきました。
健康教室の企画は、現場の状況に悩む工場長のSOSのサインから
健康教室の開催には、事業所健康管理担当者からのニーズを聞き、しっかりと内容の打ち合わせをして、健康教室開催1週間前までに健保組合に申請するという手続きを行います。健康教室は同一事業所で年4回まで可能で予算は1回上限3万円、ヘルシーランチなどの試食には、参加者一人に1000円の補助が出るそうです。
今回の発表された事例は、ある事業所の工場長から島田さんに「女性の健康づくりの健康教室を開催してほしい」というSOSの連絡があったことから始まりました。
この事業所の女性の割合は35パーセントでほとんどの女性が生産部門に属し、なかでも製品の最終チェックという重要な役割となる検査作業に従事しています。年代は18歳から60代までと幅広いのですが、中心は30-40年勤めているベテランの方々です。
今回のSOSの理由は、この18歳の若い女性について。彼女は月経が重く、その時期は休みがちになり、体調が心配であること、制度として生理休暇はありますが、ベテランの方々からは「月経くらいで休むなんて」と厳しい声が上がっている。このままでは人間関係が悪化して、若い女性が辞めてしまうのではという相談でした。男性上司は心配しているが、どのように声を掛けたらいいのかわからないとのことでした。
女性自身でさえ、女性のからだとこころの知識を学ぶ機会は少ない
こうした状況から、女性が働きやすい職場とするために何かできないだろうかと考えて、女性の健康に特化したテーマで「自分たちの体調の変化と対処について知ろう」という健康教室を開催することになりました。テーマは、「女性のライフサイクルと健康」。PMS(月経前症候群)、月経困難症、更年期障害についてなど、女性のライフサイクルによる変化についての情報提供と、グループワークという構成で実施しました。健康教室は、工場の稼働を一時止めて実施されたとのこと、事業所の理解と意気込みをとても感じました。
セミナーでは、教室で伝えたかったことのまとめとして、
- 自覚症状を感じたら、「いつもと違うよ!」と、からだがサインを出しているとき。迷わず、婦人科・産婦人科に相談しよう!
- 定期的に健康診断と乳がん・子宮がん検診を受けよう
- 基礎体温・PMSダイヤリーをつけてみよう
を参加者に呼びかけました。そして、女性が働きやすい職場は、女性だけでなく、誰もが安心して長く活躍できる職場になることに共感してもらうセミナーとなりました。
受講後の感想で印象的だったのが「保健体育の授業以来、このような機会がなかったのでとてもよかった」「学生の時は身体の成熟について教えられたが身体の衰えについては教えてもらえなかった」という声です。
専門職として当たり前と思っている知識も、一般の人にとって、正しい情報を得る機会はほとんどないのかもしれません。こうした視点も、女性の健康づくりの支援としてしっかりと認識しなくてはと感じました。
他にも参加者から保健師への期待として、相談窓口としての存在(同性であることで相談しやすく共感も得やすい、話を聞いてもらえることで不安の軽減につながる)、予防的支援(基礎知識、働き方や社会変化に対応した指導やアドバイス)があることをアンケートから知ることができたそうです。
ちなみに後日談として、工場長が月経の重い18歳の女性に、(たぶん勇気を出して)「辛そうだけど、婦人科に受診してみたら」と伝えたところ、「婦人科に相談したらいいんですか、受診してみます!」と何の抵抗もなく受診して、今も元気に働いているそうです。
実践報告後のグループごとの感想では、健康教室は何分で行ったのか(←60-75分程度)といった具体的な質問や、社会人になってからの健康教育の大切さを再認識したと言った声が聞かれました。
コロナ禍で加速する社会変化のなかで、どのように女性の健康づくりを支援していくか
2部は、ファシリテーターとして加倉井さおりさんから、「コロナ禍での働く女性の健康支援、何ができるか、何から始めるか」と題した話題提供からスタートしました。
多様性社会と言われ、価値観、社会構造、生活様式など、数年前から変わってきていると感じていたなか、コロナ禍により、この変化が加速している。女性の生き方はより多様化していて、結婚する、しない、子どもがいる、いないといったことから、働き方もさまざま。
また、女性はライフステージにより、こころとからだの変化の波が大きいので、その点を踏まえて健康支援をしていくことが大切。実際に健康支援の研修を行なうと、女性のからだの仕組みなどの知識を正しく持っている人は予想以上に少ない。某官公庁研修で、「女性ホルモンの分泌はどこから出ている?」 というクイズに対して「耳の後ろ」という回答があり、専門職は当たり前と思っていることも丁寧に伝えていくことの大切さを実感したというエピソードの紹介もありました。
また、WOMANウェルネスプロジェクトとして調査した「働く母1000人実態調査」から、働く母親の8割以上が何らかの不調を抱えていること、その母親たちが元気に働くために必要なことは、パートナーや職場の理解と協力、という回答が圧倒的に多かったことを発表いただき、この調査結果について、それぞれの研修時に活用できることもお伝えいただきました。
在宅勤務など働く環境や家庭環境の変化など、コロナ禍による状況の変化もあるなかで、女性の健康づくり支援として、①これまで取り組んできたこと、②これから何ができるか、グループに分かれて話し合いました。
グループごとの発表では、取り組み内容として、子宮頸がん・乳がん検診の案内に個人名を入れて送付することで受診率が向上したことや、検診をアンケート収集の場として情報収集してセミナーを企画するなどのアイデアが挙げられました。また、コロナ禍による問題点として、リアルでの雑談がなくなったことや、リモートワークによる孤独感など、メンタルの負荷が量から質に変わってきていることや、外出の自粛やリモートワークによるデスクワークの増加などから身体活動の低下していることへの取り組みの必要性も挙げられました。
最後に加倉井さんから、この研究会を情報収集の場としてだけでなく、発表いただいた島田さんのように、聞いて、実践していくための場にしていただけたら嬉しいですと、参加者の皆様に実践への呼びかけをして研究会を終了しました。
オンラインセミナーが増えたこともあり、オンラインでのグループミーティングにもそろそろ慣れてきました。グループごとの発表以外にも、グループ内の参加者同士で、現場での悩みや問題点、新たな視点や共感、そしてちょっとしたグループ内だけの裏話をお土産として持って帰れる。そんなグループミーティグの出会いも実践へのエネルキーになるのではと、一参加者として感じた研究会でした。次回も楽しみです。
(レポート:Mika Masaki)
WOMANウェルネスライフ研究会では、次年度も年2回開催します。
詳細は、WOMANウェルネスライフ研究会ページをご覧ください。
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