2022年4月から積極的勧奨が再開されたHPVワクチン接種。専門職として、あなたはどのように伝えていますか。HPVワクチン接種は、接種後に様々な症状で苦しむ人の訴えなどから、国では積極的勧奨を控えていました。そのため、HPVワクチン接種率は、日本は非常に低い状況になっています。
今回の研究会は、「みんなで知ろうHPVプロジェクト」で啓発活動をされている産婦人科専門医の重見大介先生から「子宮頸がんとHPVワクチンの最新情報を学ぶ!」と題して、講演いただきました。子宮頸がん、HPVワクチンへの理解を深めるとともに、エビデンスにもとづく情報を「どのように伝えるか」について、学びを得る場になりました。
子宮頸がんは若い世代への教育が大切
重見先生は、まず子宮頸がんの重要性を強調されました。子宮頸がんは、年間約1万人の罹患者と約2900人の死亡者が出る深刻な病気です。子宮頸がんの要因は、HPVの感染が95%以上で、主に性交渉により感染します。驚くべきことに女性の「80%が一度はHPVに感染している」といることも示されました。
HPVに感染しても、自然に正常細胞に戻る場合もありますが、感染後に「軽度異形成」に進行するのは10%、「軽度異形成」から「中等度異形成」には15%、「中等度異形成」から「高度異形成」には25%、「高度異形成」から「子宮頸がん」には20%が数年から数十年かけて進行します。また、喫煙が進行を早めることもわかっています。
特に注意すべき点として、子宮頸がんの罹患率のピークが20〜40代、他のがんと比べて、若い世代がかかりやすいことが挙げられます。この世代は、妊娠・出産を考える世代でもあり、子宮頸がんの予防は、若い世代への教育や啓発がとても重要といえるでしょう。
子宮頸がんの予防は検診とワクチン接種の両輪
では、子宮頸がんは予防できるのかというと、予防できます。
一つは二次予防としての検診です。現在、若い世代から罹患する子宮頸がんは、早期発見・早期治療のために、20代から公費で定期検診が実施されています。検診により早期発見・早期治療できれば、妊よう性を温存した治療が可能です。ただ、治療手術により早産のリスクが高くなること、進行していると子宮全摘の可能性もあります。また、初期段階の「異形成」と診断されると、定期的な検査が必要となり、心身に負担がかかります。
そこで重要なのが、一次予防としてのHPVワクチン接種です。ワクチン接種の有効性として、子宮頸がんの発症リスクが全世代では63%減少、16歳までの接種に限ると88%減少するという報告があります。
日本では、HPVワクチン接種は、2013年4月から、小学校6年〜高校1年女子を対象に、定期接種となりましたが、接種後の様々な症状の訴えなどから、2013年6月に積極的勧奨を差し控えることとなり、そのためか、定期接種でありながら、日本のHPVワクチン接種率は2018年時点で0.6%、現時点でも10〜20%と、世界の中でもかなり低い状況になっています。
HPVワクチン接種におけるエビデンス
HPVワクチン接種後に様々な症状で苦しむ訴えは、過去に報道が過熱し、センシティブな問題となっていました。こうした点からも、エビデンスにもとづく情報を、ていねいに伝えることが大切と重見先生は語られました。
まず、ワクチン接種においてよく出てくる言葉である、副反応と有害事象の違いについて。「有害事象」とは、予防接種後に予期せずおきた不利益な現象全て。たまたまおきた健康被害、例えば、ワクチン接種当日の晩の食中毒や、ワクチン接種の帰り道で交通事故なども含んだものです。「副反応」とは、ワクチンが原因と推察される場合の反応のことで、副反応は、有害事象の一部といえます。ちなみに「副作用」は主に薬による反応のこと。ワクチン接種の文章を読むときは、こうした言葉の使い方の違いをしっかりと知っておくこと、また違いをわからずに使っている文章には注意が必要とのことでした。
日本において、積極的勧奨が差し控えられているなか、学術団体からはたびたび積極的勧奨の再開への声明が出されるとともに、HPVワクチン接種の安全性の研究が進められました。世界の26本の研究を統合した結果では、重篤な副反応の発生率は、「ワクチン接種とプラセボ投与では、重篤な副反応はゼロでないが、同じ割合で起きている」と結論づけられました。つまり、対象となる10代女子では、ワクチン接種という要因がなくても(もしかしたら別な要因で)、一定の頻度で重篤な副反応と同様のことがおこるということです。名古屋スタディという日本の研究では、3万人を対象に研究が行われ「症状とワクチン接種との因果関係は認められない」ことがわかりました。
HPVワクチンの「積極的勧奨」の再開と今後について
こうした研究報告により、HPVワクチンの安全性が確認されたことで、2021年から、9価HPVワクチンの承認、個別通知を送るよう自治体へ通知、男性に適応拡大、そして2022年4月から積極的勧奨が再開されました。積極的勧奨を差し控えていた時期に対象だった1997年度〜2005年度生まれの女性で未接種の人には、2024年度まで無料でワクチン接種が受けられるキャッチアップ接種が行われています。
また、2023年4月からは、公費で9価HPVワクチン接種もスタートしました。新しく加わった9価ワクチンは、2価4価より有効性が高く、ハイリスクHPVを25%多く予防できるそうです。実際のHPVワクチン接種は、2価4価は必ず3回接種。9価は初回接種が15歳未満であれば2回接種で完了になります。
また、今後の動向として、定期接種の対象が10代女子のみでなく、10代男子にも拡大していく可能性についてもお話しいただきました。その理由として、HPV感染は男性にも中咽頭がん、肛門がんのリスクがあることと、女性と比較するとリスクは高くなくても、ワクチン接種は感染拡大を防ぎ、女性の健康を守ることにつながるため。自治体の一部では、男子のワクチン接種に補助を出しているところもありますが、定期接種になるかはまだ未定とのこと。ちなみに、定期接種の対象外で、自費でワクチン接種をすると3回の接種で約10万円になるそうです。
エビデンスにもとづく正しい知識による選択
HPVワクチン接種を受ける場合、受けない場合、それぞれのメリット・デメリットを上記のように、重見先生は数字を提示して説明してくださいました。もちろん、副反応はゼロでありません。接種後の体調不良への対応、被害を受けた場合の救済制度などの情報もきちんと教えていただきました。
重見先生のご講演から、フラットな視点で情報を伝えることの大切さを実感しました。そして、自分自身が伝える側になったときに「なんとなくワクチン接種は怖いという感情」に対して、その対象者にエビデンスのある情報を理解してもらい、自分自身で選択ができるヘルスリテラシーを持ってもらえるのか、とても考えさせられました。
真摯に答える姿勢が「伝える内容」への信頼に
ご講演の最後に、重見先生はHPVワクチンについて「よくあるQ&A」をまとめてくださいました。
Q. 性交渉の経験があると接種は無意味?
Q. HPVワクチンの効果はどのくらい続く?
Q. 2価4価を接種した人はもう9価を接種できない?
Q. 年齢によってシルガード9の接種回数が異なるのはなぜ?
Q. HPVワクチンは痛い?
Q. 9価ワクチンは副反応が強い?
Q. キャッチアップ接種の対象者が2年前に自費でシルガード9の接種を受けた場合、費用の払い戻し(償還払い)は可能?
Q&A形式で制度からワクチン接種自体の内容まで幅広く、わかりやすく解説していただき、その後、参加者からの疑問や不安についても、現時点でわかることわからないことを曖昧にせず、ていねいに回答いただきました。
参加者からの質問で「医師としてではなく、先生個人として家族にHPVワクチン接種を受けさせますか」という問いに対して、「自分自身と妹が接種している、そして身近な産婦人科医の女のお子さんは全てワクチン接種をしている」と個人としての考えをお伝えいただけ、真摯に答える姿勢が「伝える内容」への信頼となると感じました。
最後に、加倉井先生から、7月に出版された重見先生の著書『病院では聞けない最新情報まで全カバー!妊娠・出産がぜんぶわかる本』(KADOKAWA)についての告知と、「今日の学びを現場で活用し、子宮頸がんの予防や、子宮頸がんに悩んでいる方に寄り添いながら健康支援を」というメッセージをいただき、重見先生への感謝を参加者全員で拍手をして終了となりました。
(レポート:Mika Masaki)
今回の学びをそれぞれに現場で活かして、子宮頸がん予防の活動を推進してほしいと願っています。子宮頸がんで悲しむ人をなくしていきたい。
最後はWOMANウェルネスプロジェクトメンバーとも記念撮影いただきました。
重見先生ありがとうございます!
次回のWOMANウェルネスライフ研究会の予定です。
日時:2024年2月3日(土)14時~16時 <オンライン開催>
テーマ:「セクシャル・リプロダクティブヘルス&ライツ~世界中の女性が健やかに幸せに生きるために」
ジョイセフ 小野美智代さんにご登壇いただきます。
*動画視聴は会員限定となっております。
WOMANウェルネスライフ研究会の今後の活動予定、入会方法などについて詳細は、WOMANウェルネスライフ研究会ページをご覧ください。
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