第7回WOMANウェルネスライフ研究会「働き続ける力を考える」がオンラインで開催されました。
「働く力」だけでなく、「働き続ける力」をテーマとした今回の研究会。長く働き続けるために必要なこととはなにか。働く女性が増えてきた昨今、「働き続ける力」は今まさに重要なテーマに感じました。
第一部は一木ひとみさん(保健師)から実践報告「働き続ける力を考える~インタビュー調査から見えてきたこと」を発表していただき、第2部は、代表の加倉井さおりさんをファシリテーターに参加者と意見交換の場が設けられました。
第1部:実践報告
20年以上仕事を継続してきた一般企業の女性労働者20名にインタビュー調査
20年以上仕事を継続してきた女性労働者の働き続ける力に関する研究で、日本産業衛生学会産業看護部会のポスター優秀賞を受賞された一木ひとみさん。
一木さん自身も保健師として企業で働き続けながら、現場の課題解決の研究がしたいと大学院に進学しましたが、はじめはなかなか研究テーマが定まらなかったそうです。しかし、働き続けている女性社員の声として「50代過ぎるとほんとイライラする」「こんな私を見たら誰も子どもを産みたいと思いませんよ」など、頑張って働いてきた方々なのに、こうした思いをもつのはなぜかという問いから、このテーマにたどり着いたそうです。
研究として調べてみると、「職務継続」「女性」をテーマにした論文は少なく、その中には一般企業で働く女性を対象としたものはほとんどないこともわかり、研究として20年以上仕事を継続してきた一般企業の女性労働者20名にインタビュー調査を行いました。今回の発表は、この研究をもとにお話ししていただきました。
「働き続ける」ために必要な3つの側面
インタビュー調査から見えてきたことは、働き続ける力として、「仕事を継続するための基盤」「仕事を継続するために必要な力」「仕事を継続して見える景色」の3つの側面があることです。
仕事の継続のための「基盤」は、自分の思いと環境整備
「仕事を継続するための基盤」を構成する要素として、「仕事を継続するための覚悟」「職務継続ができる環境が整っている」が示されました。働き続けるためには、第一に働く本人自身の気持ちであり、確かに「覚悟」が必要でしょう。
ただ、もう一つの要素、「職務継続ができる環境が整っている」では、「働きやすい制度が整っている」「安心できる保育園や病児保育の支援」「上司の配慮・支援で仕事は継続できる」「仲間の協力に支えられる」「遠く離れた両親も巻き込んで家族総動員の家族の協力」を挙げられており、家族をはじめ、職場の上司、仲間、そして制度という環境整備は、働き続ける上で欠かせないものに感じました。残念ながら現状では、こうした環境は個々人によって大きく違っています。女性が働き続けるためには、よりよい環境の整備が大きく影響していることを改めて認識しました。
経済的余裕や周囲に認められる喜び、そして柔軟な働き方が「力」になる
「仕事を継続するために必要な力」では、「周囲に認められることが働く力になる」「仕事をしている自分が日々のモチベーションになる」「仕事と家庭の折り合いを上手くつけられる」という面があげられました。
「周囲に認められることが働く力になる」では、組織、顧客、家族から認められることへの喜びが大きな力になることがわかりました。インタビューの中では「仕事の成果が認められ評価されることは嬉しい」「顧客からありがとうと言われると達成感がある」「娘も働き続けることを考えており彼女のロールモデルになっている」という、言葉にとても共感しました。「仕事をしている自分が日々のモチベーションになる」では、やはり「経済的な余裕がある幸福感」という面や、継続したことで困難を跳ね返し、経験が次の局面で引き出されることがあげられていました。
「仕事と家庭の折り合いを上手くつけられる」では、限られた時間でできること、優先順位を柔軟にして取り組むこと、そして働きたいという思いを家族に伝えることなど。
「仕事を継続するために必要な力」は、第2部で話題にもなった「辞めたいと思ったときにとどまった理由」にもつながるカテゴリーではないかと思いました。
仕事を継続してこそ見える景色がある
「仕事を継続して見える景色」では、「仕事をやり切った後、やったーという満足感がある」「落ち込んだ時期こそいつも勉強している。コツコツやればできるようになる」「嫌なことはあるが、一つの嫌なことに執着しなくなった」「制度はあったほうがいいが使い方だと思う」「仕事はかけがえがないもの、この後の生活にとっても勤めていて良かったと思う」など、まさに仕事を続けてきた方々の仕事への充足感を感じる言葉をたくさん伺えました。
こうした声から、「積み上がったスキルへの誇り」「失敗が自分の強みになることに気づく」「次のステップに進む手段・準備になる」という、働き続けた方々だからこそ得ることができた「レジリエンス(=困難や脅威に直面している状況に対してうまく適応できる能力)」を持つことができたのではという考察がされました。
こうしたインタビュー調査から、女性労働者の働き続ける力を高めるには、
・職務継続する気持ちのサポート
・キャリアを明確にする研修の必要性
・働き続ける資本としての健康意識の醸成
・ヘルスリテラシーの向上
・上司や同僚のマネージメントスキル
・組織活性化教育の必要性の提案
など、多面的な支援が必要であることが示されました。今後の課題として、今回の調査は、大企業勤務者だったので、他職種や中小企業で働く女性労働者の働き続ける力を明らかにする必要があると結んでいます。まさに、一木さんの次なる研究が待ち遠しいと思いました。
最後に、一木さんから、この研究テーマに決まるまでは苦難だったが、実践のテーマが定まり自分の知りたいことを調べるのは楽しく、何よりよかったのは、インタビューを通して、さまざまな困難を乗り越えてきた20名の働く女性のお話を伺えたこと。印象に残ったのは「失敗してもいい。それは次のステージの糧になり、つながっていくと考えて、おおらかさをもつこと」という言葉で、働く後輩たちへのエールになるのではと話されました。
発表後の意見交換
発表後は、グループに分かれて、発表への感想や質問など話し合いました。
それぞれのグループからさまざまな感想がありましたが、なかでも一木さん自身が働き続けたことへの質問が複数ありました。一木さんからは「仕事を続けたいのか辞めたいのか、自分の奥底にある気持ちなのかと思う。上司とケンカをして泣きながら辞めたいと思ったこともあったが、『感情的なことに執着せず、働き続けたいなら理性的になって働いたら』という夫のアドバイスなど、他の方の視点で見つめ直すことも大切かもしれない」とのことでした。
また、インタビュー対象者はどのような方かという質問に対して、「大企業4〜5社で同じ企業に継続して勤務している方。1回辞めると正社員としては働けないのではという思いもあったのではないか」とお答えいただきました。
第2部:自分事として「働き続ける」ことを考える
第2部は、はじめに加倉井さんから、ご自身の「働き続ける力」について、母親からの一人でも生きていける力として、女性は手に職を持つことを勧められたこと、高校時代に保健師という職業を知り目指したこと、保健師として働いていたなか介護離職を経験しましたが、働き方を変えて働き続けたことなどお話しいただきました。そして、こうして働き続けることを当然と考えていましたが、一般企業では女性が働き続けることが難しいことにショックを受け、これが加倉井さんの目標となっている「女性支援」の原動力になっていることを語られました。
グループごとに分かれて話した内容を発表
ここからグループに分かれて、「基盤となるもの」「継続するための力」「継続して見える景色」について話し合い、その内容を発表しました。
「基盤となるもの」として、家族や実家などの協力、職場の理解、制度としての職場環境など。
「継続するための力」として、経済的自立、社会とのつながり、やりがい・使命感、自分自身の健康、そして頑張りすぎない、ある程度のわりきることの大切さなど。
「継続して見える景色」として、後輩など若い世代への応援、チームワークといった言葉が聞かれました。
加倉井さんからは、職場環境として制度は重要で整えられてきていますが、その制度を使える風土をつくることが大切。これは一人一人の意識から。そのためにも、男性ももちろんですが、女性同士、働く人同士がお互いに応援し合う、勇気づけられる存在になっていけるようにと支援していきましょうとコメントをいただきました。最後に、司会の菊池さんから、この研究会の時間が参加者みなさんの働き続ける力になるといいですね、という言葉で終了となりました。
(レポート:Mika Masaki)
WOMANウェルネスライフ研究会の今後の活動予定、入会方法などについて詳細は、WOMANウェルネスライフ研究会ページをご覧ください。
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