発足して5周年を迎えたWOMANウェルネスライフ研究会。発足記念講演にもご登壇いただいた産婦人科医 高尾美穂先生をお招きして、第8回目となる研究会を開催しました。
開催レポートを是非ご覧下さい。
あなたは「更年期」について正しい知識を持っていますか。
今回の研究会は、第1部は、高尾美穂先生に、女性の健康に大きく関わる女性ホルモン、エストロゲンをキーワードに、更年期はもちろん、さまざまな女性の健康課題について、お話しいただきました。「更年期」ということばは、どちらかというとネガティブなイメージがある方も多いのではないかと思います。ただ「更年期」は誰もが通るステージ。知識をきちんと持つことで本人はもちろん、正しく理解し周囲に伝えることが、とても大切であることを学ぶ機会になりました。
第2部は、代表の加倉井さおりさんをファシリテーターに、参加者からの質問に高尾先生が回答いただく場が設けられました。
第1部:講演「更年期を健やかに幸せに生きるために、知っておきたいこと」
イーク表参道 副院長 高尾美穂氏(産婦人科専門医)
エストロゲンと女性のライフサイクル
「女性の人生は女性ホルモンに揺さぶられる」。高尾先生のスライドはインパクトがありました。女性は、体つきがふっくらしてくるという第二次性徴期の変化から始まり、生理、妊娠、出産、そして更年期、閉経といった、女性だからこそのライフサイクルがありますが、このライフサイクルを回しているのが、女性ホルモンであるエストロゲンなのです。
こうした女性本来のライフサイクルに対して、働く女性の増加、少子高齢化など現代社会の変化が、さまざまな女性の健康問題を引き起こしています。例えば、「女性のやせ」について。高尾先生から「ふっくらしてくるのが生物的な当たり前なのに、「やせ」の外見をよしとする風潮から、20〜40代の日本人女性の「やせ」は増えており、本人の健康はもとより、低体重出生児の増加など次世代へも影響を及ぼしている」ことをお話しいただきました。他にも「望まない妊娠」「不妊治療」「女性のがん」など、女性の健康についての問題点を解説いただきました。
また「女性の社会進出が進み、妊娠中・出産後も働き続ける女性が増加している中、ジェンダーギャップの大きい日本では、職場環境は、女性にとって決して働きやすいとは言い切れない」という現状から、「職場において、母性を尊重され、働きながら子どもを産み育てることができる環境を整備することが社会にとっても重要であると同時に、当事者である女性が声をあげることの大切さを伝えたい」と高尾先生は話されました。
女性は生理が調子のよさに影響する
女性ホルモンであるエストロゲンが分泌され排卵が起こり、結果として妊娠が成立しない場合に生理が生じます。つまり、生理が順調に来ているのは、エストロゲンがきちんと分泌されている状態であるというサインとも言えます。ある調査では、生理について悩みがあるかと問いに対して、約4分の3の人が「はい」と回答しています。つまり生理が順調であることは、女性の日々のQOL向上にとても重要と言えるでしょう。
生理に関わる不調として、「月経困難症」「PMS(月経前症候群)」「PMDD(月経前不快気分障害)」などについてご説明いただきました。こうした月経随伴症状による労働損益は1年間で4,911億円にも相当し、パフォーマンスが半分以下になると回答した人は45%にものぼります。
そして驚くことに、月経随伴症状が非常に辛いと回答した人でも35%しか医療機関に受診していません。高尾先生からは「医療機関では受診する人にしか出会えないので、残りの65%の人たちに、こうした痛みや不快や症状は、がまんするのではなく、婦人科に相談して治療する時代であることを伝えてほしい」とのこと。時代はどんどん変化しています。
更年期はいったいいつから?
ところで、更年期の定義とはなんでしょう。
その前に、閉経の定義から。閉経とは卵巣の働きが完全に止まること。具体的には最後の生理から12か月間生理がないことを言います。つまり1年経たないと閉経かどうかはわからない。そして更年期とは、閉経の前後5年間の10年間を指します。こちらも後からしかわからないため、更年期による症状なのかは迷うところでもあり、これが対策をとりにくい要因でもあります。
統計的には、日本人の平均的な閉経年齢は50歳。ただ40代でも閉経する人はいます。高尾先生から「男性と違い、女性は妊孕性にはタイムリミットがある。社会に出る頃には、これから起こる女性の体の変化の知識を持って人生設計をしてほしい」とお話しされていました。
更年期症状はなぜ起こるのか
更年期のメイン症状として挙げられるのが、ほてりやのぼせ。生理の状態が不安定になり卵巣の働きが落ちてくると、なぜ、このような症状が出るのでしょうか。
ホルモン分泌をコントロールするのは、脳の中の視床下部という場所です。視床下部は、他にも自律神経の調整やストレスの感知という役割もあります。
生理が順調な時は、視床下部からの「エストロゲンの分泌の指令」にもとづき卵巣が働いていますが、更年期となり卵巣の働きが落ちると、視床下部が出した「エストロゲンの分泌の指令」が今まで通りに行かなくなります。そのため視床下部にストレスがかかり、「精神症状(抑うつやイライラ)」「自律神経系の症状(のぼせ、ほてり、発汗、冷え性など)」といった、視床下部の他の働きにも支障が出てきてしまい、症状としてあらわれてくるのです。
あるアンケート結果では、「更年期」を迎えた人のうち、6割の人は「更年期症状」を自覚し、その半分程度の3割の人は日常生活に支障が出る「更年期障害」に当たるとされていますが、全体の4割の人は症状がないと回答しています。
つまり、更年期の症状の出方は人によってさまざま。生理でも同じことが言えますが、辛い症状がない人はつい軽く考えがちですが、別な人にとってはとても辛い状態であることを理解することは重要です。
更年期だからこそ必要な生活の見直し
高尾先生は「40代後半で閉経を迎える人もいるので、40代になったら更年期による症状かも、と意識することが必要」とのこと。ただこの時期は、女性に多い甲状腺の病気など似たような症状を起こす病気もあるので、こうした他の病気でないか、自分の健康状態を「棚卸し」しておくことが大切です。
また、エストロゲンが分泌している期間、つまり生理が順調に来ている間は、このホルモンの働きにより、血管の弾力性を保ち、骨を強くするため、男性と比較すると生活習慣病に罹りにくいなど、高尾先生曰く、健康に関して「ボーナス」期間と言えます。
更年期となりエストロゲンが減少すると、残念ながら、動脈硬化や高血圧、骨粗しょう症などになりやすくなります。血管によい生活として、食物繊維や青魚を増やし、エネルギーや動物性脂肪、アルコールを減らし、中等程度の運動を行うこと。骨によい生活は、カルシウムやビタミンDをとり、適度に日光にあたるなど、更年期は健康的な生活習慣をより心がけていくことが大切です。
更年期をより健やかに過ごすために
知れば知るほど、エストロゲンの重要性を感じますが、閉経している場合には、エストロゲンの恩恵を受けられません。どうしたらいいのでしょうか。
方法の一つとして、シンプルに「エストロゲンを足す」という方法があります。それがホルモン補充療法です。生理が順調な時に分泌されていた3分の1程度のエストロゲンを足すことで、更年期の不調を緩和できます。欧米では4〜6割でファーストチョイスとして行われていますが、日本では1.7パーセント程度。これはホルモン補充療法におけるがん発症のリスクなどを目にしているからと思われますが、現在は経口薬より経皮薬のリスクが低いことから、塗ったり、貼ったりする薬が処方されています。
漢方薬という選択もあります。漢方薬がよいのは、一つ一つの症状ではなく、更年期症状全体に対して、底上げする効果があること。具体的には、更年期に有効な薬は「当帰芍薬散」「加味逍遥散」「桂枝茯苓丸」などが、本人の体質や症状に合わせて用いられます。
また最近は、大豆イソフラボンから作られるエクオールという成分の化学構造式がエストロゲンに似ており、同じような作用をすることがわかりました。ただ、エクオールは必要な腸内細菌を持っていないとイソフラボンから作られず、残念ながら日本人女性の2人に1人はこの腸内細菌を持っていないそうです。そのため、エクオールをサプリメントで直接取ることで、効果が実感できるとのことでした(エビデンスを持ったサプリメントを選択することが重要)。
運動にも、不調を和らげる効果があります。運動は腰痛や肩こりへの効果だけと捉えがちですが、実はほてりやのぼせといった症状はもちろん、メンタルへの効果も高いことがわかっています。
女性ホルモンの知識を前向きに理解してQOLを高めていく
高尾先生から、「更年期は『曲がり角』であることは間違いない。少しスピードを落とし、不調を周囲に理解してもらい自分を優先する時間を作ること。そして、自分のことは変えられるが、自分以外の変えられないことはあきらめる、というストレスを受け取らない生き方、考え方を持つことが大切。変えられる自分のこととして、自分の体の健康、心の健康にフォーカスしましょう。死ぬことはないため、女性特有の不調は放置しがちですが、QOLを大きく低下させてしまいます。これから、思い描くような人生を過ごすために、QOLを高めていきましょう」と話されました。
また、全体を通して最後に、女性が元気に働くために、
○ホルモンについて、前向きに理解する(知識)
○周りに、女性の不調に対する理解、想像力を求める(発信)
○社会の女性の不調に対する理解+サポート(仕組みづくり)
の必要性を訴えて、ご講演をまとめられました。
第2部 Q&Aトークセッション
第2部のQ&Aトークセッションは加倉井さおりさんをファシリテーターとして、事前にいただいていた参加者からの質問に高尾先生に回答いただきました。
最初に、加倉井さんから、高尾先生との出会いが、女性の健康づくりをテーマとしたこの研究会を立ち上げるきっかけとなり、専門職として相手に寄り添える支援をしていきたいという想いを改めてもったことをお話しいただきました。
次に、参加者からの質問について高尾先生にご回答いただきました。質問内容は、かなり具体的なもので、更年期における不正出血の判断について、更年期症状へのプランタ治療について、閉経と診断後の排卵について、卵巣がんの検査・検診についてなど。
「プラセンタ治療による改善の期待はまずない(日本の論文が1本のみ)」
「検診とは早期発見でき死亡率の低下が見込めるものを実施しているので、卵巣がんには検診はない。婦人科健診などで発見できることもあるが…」など、一つ一つにていねいに、かなり明快に、そして最後までエネルギッシュにお答えをいただきました。
高尾先生は2時間のご講演中、全く休憩なく、まさに全力投球にてお話しいただきました。講演内容の素晴らしさはもちろんですが、「伝える人」のエネルギーは「聞く人」にも共振することを強く感じました。講演後、高尾先生のお話を誰かに伝えたい、そんな気持ちになりました。
(レポート:Mika Masaki)
女性の人生を考えた時、そのライフステージごとにそれぞれの悩みや課題があります。その時に出逢う専門職が「出会えてよかった」「これからの人生を前を向いて歩もう」そう思わせてもらえる存在でありたいと思うのです。私が高尾先生と出逢って、そう思い歩めたように。
人生はずっと繋がっていく。
そして人の出逢いや自分の選択が未来に大きな影響があるはず。
だからこそ、出会えてよかったと思える保健師でありたいしより良い未来のための選択ができるような支援をしたい。
高尾先生がよく言われる、「粛々と」歩みを進めたい。地に足を着けて、皆さんと共に…。そう改めて想っています。
大変ご多忙の中、ご講演いただいた高尾先生、ありがとうございました。
そしてご参加下さった皆さんもありがとうございました!
次回は2023年2月11日に開催します。
「乳がんになった私が、今伝えたいこと」をテーマに保健師が体験を語ってくれます。
皆さんと共に女性の健康支援を進めていきたいと思ってます。
加倉井さおり
WOMANウェルネスライフ研究会の今後の活動予定、入会方法などについて詳細は、WOMANウェルネスライフ研究会ページをご覧ください。
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WOMANウェルネスプロジェクトとして調査した「働く母1000人実態調査」では、働く母親の8割以上が何らかの不調を抱えていること、その母親たちが元気に働くために必要なことは、パートナーや職場の理解と協力、という回答が圧倒的に多かったことを発表しています。調査結果をこちらからご覧頂けます。
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