2026年9月5日に第16回WOMANウェルネスライフ研究会「不妊治療のリアルから支援を考える ~プレコンセプションケアの視点を入れて~」を開催しました。
今回もMika Masakiさんにレポートしていただきました。
講座の詳細はこちらをご確認ください。
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不妊治療の「リアル」から考える、働く人への健康支援――プレコンセプションケアを知る
2023年には、日本で約8万5,000人が体外受精により出生したとの報道もあり、不妊治療をする人は決して特別な存在ではなくなっています。
ただ「不妊」はとてもセンシティブでプライベートなもの。
そのため、治療を受ける当事者以外にとって、その「リアル」についてどれだけ知っているかと問われると、「よく知らない」という人も多いのではないでしょうか。
第16回WOMANウェルネスライフ研究会では、産婦人科専門医の重見大介先生をお迎えし「不妊治療のリアルから考える~プレコンセプションケアの視点を入れて~」をテーマにお話しいただきました。
重見先生は、女性の健康と社会課題を活動の軸とし、臨床や研究、そして産婦人科領域のオンライン相談サービスなど様々な分野で活躍されています。
講演では、次の4つのステップで進められました。
1.不妊についての基礎知識
2.不妊治療の実際を知ろう
3.不妊治療と仕事の両立
4.プレコンセプションケアとは?
不妊治療の「今」を正しく知ることから
まずは、不妊についての基礎知識から。
不妊とは一般に、妊娠を望む男女が一定の頻度で性交渉をしても、1年間妊娠しない状態を指します。
ただし、年齢が高い場合は1年を待たず、早期に相談することが勧められているそうです。
知っておくべきこととして、不妊の原因は女性側だけの問題ではないこと。
男性側に原因があるケースが全体の半分程度あり、不妊治療を「女性のもの」と考えるのは、今の時代にはそぐわないと言えるでしょう。
一方で、女性の年齢は妊娠率や流産率に大きく影響する要因であることも事実です。
重見先生からは、男女それぞれの不妊の要因や治療方法について、わかりやすく説明していただきました。
また、不妊・生殖医療に関する情報はインターネットに依存しやすく、不正確な情報や商業目的の情報もあるため、発信者、根拠、商業性を確認しながら情報収集することが重要とのこと。
例えば、葉酸摂取が重要という知識を得ても、必要な時期(妊娠前)や摂り方(サプリメントを多用することで過剰摂取になることも)など、情報を誤解していることもあるそうです。
「治療のリアル」から、見えてくる負担
不妊治療の具体的な進め方として、①タイミング法、②人工授精、③体外受精・胚移植へと段階的に進むこと、そしてそれぞれの治療について説明がありました。
お話を聞いて印象に残ったのは、不妊治療ならではの「時間の制約」です。
不妊治療は月経周期に合わせて行われ、排卵日はあくまで予測。
そのため、時期が限定される検査を逃すと、次の周期まで持ち越されます。検査や治療の予定を先々まで見通すことが難しく、想定より時間がかかることもあるそうです。
妊娠前の不妊検査として、月経中の採血、卵管造影検査、卵胞チェック、排卵後の採血など、多くの検査があり、治療内容によっては複数回の受診や、急な受診が必要になることもあります。
こうした治療が日常生活に加わることを考えると、身体的な負担だけでなく、精神的な負担も決して小さくないことが想像できます。
不妊治療は2022年4月から保険適用が開始され、費用負担は軽減されましたが、それでも体外受精は、1周期当たり10万~20万円程度かかる場合があります。
また、体外受精・胚移植の保険適用は、40歳未満では子ども1人を得るため最大6回、40歳以上43歳未満では最大3回、43歳を超える場合は対象外という制限があります。
こうした具体的な治療の実際を知ると、2023年に日本で約8万5,000人が体外受精により出生したという数字の重みを、改めて感じられました。
不妊治療と仕事の両立に、職場はどう向き合うか
働く女性が増えるなか、不妊治療と就業の両立も大きな課題です。
働きながら治療を受ける場合、急な通院日の指定、通院や待ち時間の見通しの立ちにくさといった治療そのものの負担に加え、休暇の申請、上司への説明、業務の調整など、職場への対応も必要になります。
厚生労働省の資料として、仕事または不妊治療、あるいは雇用形態のいずれかを諦めた人が合計約26%との説明もありました。
職場に求められる支援としては、不妊治療に利用できる休暇、既存の休暇制度を利用しやすい環境、通院・休息時間、時間単位年休、上司・同僚への研修などが挙げられました。
また、従業員・職場・医療機関をつなぐツールとして、厚生労働省の「不妊治療連絡カード」も紹介されました。
もちろん、制度を整えるだけでは十分ではありません。本人の同意なく治療情報を周囲に共有しないなど、プライバシーを守ることも重要です。
そして「自然に妊娠できないなら諦めたらどうか」「忙しい時期だから妊娠されると困る」「不妊治療をするなら退職してから」といったハラスメントにつながる発言がないよう、社内への啓発も欠かせません。
ちなみに、制度があっても利用しなかった人が約4割という調査結果も紹介されました。
こうしたデータからも、制度としての支援だけでなく、治療への知識と理解、そして支援する職場風土の醸成。
これらがそろってこそ、当事者にとって心強い支援になるのだと感じました。
今後は、健康経営の一つとして「女性の健康づくり」が挙げられるなかで、「不妊治療」も重要なテーマの一つではないでしょうか。
プレコンセプションケアは「本人と次世代の健康を守る予防医療」
最後に取り上げられたのが、プレコンセプションケアです。
プレコンセプションケアは、WHOが提唱した「妊娠前からの健康づくり」の考え方で、不妊検査・治療より前の段階から、自分の体や性、健康管理について理解していくものです。
すぐに妊娠を希望する人だけではなく、将来の可能性も含めて、自身の健康について考えるすべての人が対象となります。
具体的には、適切な避妊と妊娠に関する知識、月経や婦人科疾患への早期対応、妊娠・出産・育児についてのライフプラン、健康的な生活習慣などが挙げられます。そして、これは女性だけの課題ではありません。男性の健康状態も、不妊や妊娠経過、子どもの健康に関わります。
何より印象に残ったのは、「プレコンセプションケアは少子化対策そのものではなく、本人と次世代の健康を守る予防医療として捉えるべき」という重見先生の言葉でした。
最近、「攻めの予防医療」という言葉を耳にすることがありますが、プレコンセプションケアも、本人と次世代の健康を守るための予防医療として、これからさらに重要になっていくのではないかと思います。
相談しやすい職場をつくるために
最後の質問コーナーでは、「どうしたら相談窓口を利用してもらえますか」「健康経営として、どのような取り組みが役立ちますか」といった質問が出されました。

重見先生からは、次の4つのステップが示されました。
①全社員向けのアプローチとして、まず土台をつくる
②「プレコン・ チェックシート」(国立成育医療研究センター)などを活用し、自分ごととして捉えてもらい、相談につなげる
③相談できる対象者、内容、利用方法を明確に周知し、相談しても上司への報告や人事評価に影響しないことを明示する
④相談内容に応じて、社内制度の紹介や、産業医への面接、産婦人科・内科・泌尿器科などへの受診勧奨・紹介につなげる
また、重見先生のご経験から、予約制やビデオ通話が心理的なハードルになる場合もあるため、チャット、音声通話、予約不要の相談など、複数の利用方法を設けることも、相談につなげる方法の一つです。
社内窓口は制度や働き方についての具体的な相談に強みがあり、外部窓口は「社内に知られるのでは」という不安なく専門的な相談ができることから、使い分けることも有効とのことでした。
今回の学びを振り返って
一人ひとりが抱える健康課題はさまざまです。
その課題の一つとして「不妊治療」があることを、まず職場としてしっかり認識すること。そして、どのようなサポートが必要なのかを、段階を踏みながら考えていくこと。
不妊治療の「リアル」を知ることは、当事者を特別視することではなく、誰もが安心して働き、健康を大切にできる職場を考えることにつながるのではないかと感じました。
(レポート:Mika Masaki)
WOMANウェルネスライフ研究会の今後の活動予定、入会方法などについて詳細は、WOMANウェルネスライフ研究会ページをご覧ください。
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